ENDOR雑記

束、洋書関連の個人的メモ書き。

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パヴァーヌ by キース・ロバーツ

ジャンル:SFファンタジー
対象:一般向け

アマゾン→http://amzn.to/TsqxQ8
筑摩書房→http://www.chikumashobo.co.jp/search/result?isbn=978-4-480-42996-4

1968年の作品。1987年に邦訳が出版されたが、今年の10月10日に筑摩書房から新たに文庫で発売。概要はこちらが簡潔で分りやすい。楽天ブックス
→http://books.rakuten.co.jp/rb/11894465/

所感 

色とりどりのアイコンが入り乱れては、ばくばくと奔走する濁流、ツイッター。波の間に旗がふられた。遠くひるがえるメッセージを受け取った。「パヴァーヌは古典的名作」。金木犀の香さらりと流れる午後に読み始める。


陽の傾きはじめた陰々たる冬の荒野に、白煙を吐き出し進むチェストナット色の機関車「レディ・マーガレット」。切り刻む風をものともせぬ、たくましき機関手は、将来大企業となってイギリスに名を知らしめる「ストレンジ商会」を父から引き継いだばかり。

第一旋律(第一章)の数葉を読んだだけで、古びた映画館の擦り切れたベルベットの座席に埋もれる感覚に陥る。あたたかい闇に浮かぶ銀幕に映し出される情景を、まざまざと心象に見るのならば、おそらく一気に読み切ってしまえるだろう。

巻末の解説にある通り、イメージを呼び起こす細やかな描写は、異世界には似つかわしくない程にしっかりした現実味を与えてくれる。抑制の効いた筆致は、SFファンタジーよりも純文学に近く思える(純文学というカテゴライズそのものがよく分らないくせに、こうして使ってみたりするのは、いかがなものか)。心うたれる表現に出会う事も一度や二度ではない。今、肺に吸いこむ空気のかなたから、したたかに響いてくる言葉たち。


解説の大野氏は、ジブリの映画を引きあいに出しているが、個人的な感覚からすると、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』が近いかもしれない。その透明な映像に、明治から昭和初期の日本文学に描き出されるプロレタリアの暮らしがセピアのフィルターを掛ける。さらに様々なメディアを通して得られたイメージが次々と覆いかぶさり、何度もニスを塗り重ねたような、なめらかな艶を帯びる。

1968年に路上列車がイギリスの荒野を走る。“オルタネイティブ・ヒストリー”や“スチーム・パンク”がジャンルとして確立した現在、特に目を引くものではないだろう。電気と石油のない世界で、禁欲的なまでに労働に従事する男たちを始点に、世代ごとの物語が繋がれてゆく。おそらくこの作品は、すでに数多くのSFファンタジーを読みこなしたつわもの。つまり、新たな展開を早くとせがむよりも、物語が差し出すテンポのままに、ゆったりと読み進める余裕のある方が楽しめる作品ではないかと思う。

そして第一旋律から終楽章へと向かうに従い、筆者の目指すものは、世代を越えて人の生き様を描く大河小説ではないことに気付く。思いもよらぬ程のスケールを持つ構想、そし思想が、水平線からゆっくりと、戦艦が港に近づくよう形を成して迫ってくる。

その堂々たる勇姿におののき、たじろぐ。全てを理解することはできない。ただ甘やかな悲しみが体のすみまで広がってゆく。

筆者が最終的に用意していたテーマは、イギリスの歴史に深く根ざすもので、なおかつ宗教色の強いものだ。英国国教会と、ローマカトリックの双方に興味があり、何らかの知識を有していない限り、物語後半部からはまったく雲を掴むような話になってしまう。


1987年に邦訳が出た時、売れ行きが芳しくなかったとウェブにあったが、作品の出来如何よりもむしろ、海外(主に英米)の読者が有している歴史観や知識が、国内の読者にとってあまりにもなじみ薄いものだったからではないか、と考えてみたりする。

それから25年経ち、ファンタジーの読者層も変化したことだろう。様々なオルタネイティブも広く受け入れられている。当時は図書館に行くか、個人で本を入手しなければ学べなかった歴史は、いつでもどこでも、ネットの検索窓に尋ねることができる。全てを理解することは不可能であっても。

成人して久しい方にお勧めの作品だが、若い人にも是非手にとってもらいたい。職人技がメカニックに取って代わられた今なら、ストイックな機関車の運転手や信号塔の技師は、むしろ憧れの対象となるだろうから。

ただ一見しただけでセリフが見事に少なく、活字のかたまりが続くので、最初は目が泳いでしまうかもしれない。段下げが少ないのだ。訳文自体も古めかしく思えるだろう。それでも、すこし腰を落ち着けて読み進めば、余計な装飾の落とされた、静かな語り口の良さに気付くだろう。一文が相当の長さを持っていてさえ、淀みなく流れる訳文は、熟練工の技に似て、味わい深い。

版を重ねるごとに、確実に愛好者を増やしてゆく作品だ。そうあって欲しいと切に願う。



物語の吸引力 ☆☆☆☆
ファンタジーの構築 ☆☆☆☆
説教臭さ ☆☆☆☆
もうこんなんはいらんみたいな ナシ 
びっくりしたなあもうみたいな ☆☆☆
途中で読む気がうせたりしたみたいな ナシ


category: 読書感想

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