ENDOR雑記

束、洋書関連の個人的メモ書き。

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「Tolkien and the Invention of Myth: A Reader」論文その3

A Mythology for Anglo-Saxon England

Michael D.C. Drout

大変難しい論文なのですが、一所懸命読めば(笑)とても面白い論文です。十分理解出来ているかどうか自信がないのですが、とりあえずまとめます。

Lost Talesに出てくるエリオルの枠組みの物語から論文は始まります。
エリオルにはヘンギスト(Hengest)、ホルサ(Horsa)、ヘレンダ(Heorrenda)の三人の息子がいます。実はこのうちの二人は、イングランドの歴史に深くかかわる伝説上の人物と同じ名前なのです。

アングロサクソン年代記によると、この二人はユトランド半島に住むジュート族に属し、当時ローマの支配と保護が無くなったブリテン島を悩ませたピクト族に対する傭兵としてボルティゲルン王に招かれてやってきました。この二人の後にジュート族、また引き続いて他のサクソン系の民族がブリテン島に移住し、元の住民と戦いを繰り返し、やがて彼等の国を建国します。ジュート族はゲルマン系に属します。
この二人は、ブリテン島においてアングロサクソン族の移住に非常に重要な役割を果たした人物だという事になります。
このジュート族が、ベーオウルフの属するイェーアト(Geatas)族ではないかという説があります。

ラテン語で書かれたベーダのイングランド教会史によると、Iutarumという言葉が出きます。このIutarumが英訳される際に、Geataと訳されている場合があります。
(Iutarumはどうやらジュート族を指すラテン語のようですが、ラテン語はよく分りません。一応ネットでも調べてみましたが、さっぱり@o@)おそらくこれがジュート族=イェーアト族の根拠となっているのでしょう。もっとも別の箇所では、IutarumをEoten、Ytenaと訳しています。古英語では、ジュート族をYteあるいはYtanとし、Geataとはなりません。トールキンもこの説を否定しています。むしろJuteとGeatasの混合、混乱が見られたのではないかとトールキンは「In Beowulf and the Critics」で指摘しています。

「ジュートがGeateであるという説は、古英語のベーオウルフが(英国の)国民的な叙事詩であるならば、彼はスウェーデン人であってはならないという理念を基盤として打ち立てられたものである。―中略―もしベーオウルフが国民的な叙事詩ならGautr族とジュート族の両方を含むものになるはずだ」

トールキンはリード大学にいた頃ベーオウルフに出てくるイェーアトをGoths、つまりゴート族と訳しています。ゴート族は古いゲルマン系の民族です。現在ではどうやら否定されていますが、この時代、トールキンはイェーアトをゴート(Goth)と解釈していたようです。また、ゴート族は19世紀から20世紀の学者の間では、騎馬民族とされていました。指輪物語の騎馬民族、ロヒリムの王の代々の名前にはゴート語の名前が多く見られます。

ここでヘレンダを説明しなければなりません。ヘレンダはエリオルの枠組み物語の中では、上記のヘンギスト、ホルサの異母兄弟です。ヘレンダはエリオルの後を継いでエリオルがエルフから聞いた話を書き綴ります。ヘレンダという名前は、アングロサクソン記等には出てきませんが、エクセター写本(Exeter Book)の中に詩人として登場します。

こうしたことから、Drout氏はLost Talesの中でトールキンが描いた理想のアングロサクソン人の歴史を下記のように推測しています。
エリオルが妖精の島(イングランド)へ漂流する。妖精(エルフ)達から神話を聞く。エリオルの息子、ヘンギスト、ホルサ、ヘレンダに率いられてジュート族が移住してくる。
ヘレンダは父から聞いたエルフの伝説を書き綴る。彼はまたベーオウルフの作者でもある。なぜなら、ベーオウルフの英雄はゴート族であり、ゴート族はアングロサクソンと同じくゲルマン系民族の一つであるからだ。

Drout氏はさらに言語学的な要素を用い、様々な論説によって上記の説を補足しています。


この論文を読むと、「ベーオウルフをイングランドの国民的な神話にしたかった」トールキンの願望がDrout氏の解説によって見えてくるようです。
つまり、トールキンはイングランドのアングロサクソン人の中にゴート族の血統を見出し、ベーオウルフをイングランドの正統な神話として帰属させたかったのです。その想いが指輪物語のローハンの民に強く反映されています。
実際、イェーアト族が何族なのかはっきりしていれば、あまり悩むことはなかったんでしょうね。トールキンがイェーアト族=ゴート族としたのは、当時の学会の意見を反映したものですが、トールキンはゴート語に非常に魅力を感じていたことも一因のようです。



category: トールキンオンライン講座 エッセイ

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